大切な繋がり。(桐生一馬生誕祭(5.17)※大遅刻です!

『桐生、お誕生日おめでとう!また歳とったな!』

何となく見ていたスマホの画面に、錦からのLINEの通知が表示された。そういえば毎年一番最初に錦に言われて、ああ、俺の誕生日が来たんだなって確認するのが日課だった。その度に『お前、いい加減自分の誕生日くらい覚えておけよな』って怒られていたけど。それに最近はあまり自分の事を考えなかったせいで、錦からLINEが来るまで忘れていた。

そんな俺と違ってちゃんと誕生日を覚えててくれた遥は、何やら嬉しそうに微笑みながら『おじさん、お誕生日おめでとう!これ私からの誕生日プレゼント!』と言って、小さな箱を手渡してきた。思わず嬉しくて、キョトンとしてしまう。

「遥……これどうしたんだ?」

「うん、あのね、この前おじさんと一緒に遊びに行った時に、何となく欲しいなあって思って覚えてたの。あ、でもちゃんとお金を貯めておじさんの為に選んだんだよ!」

「フッ、そうか。ありがとうな」

ニヤける顔を隠しつつ、くしゃくしゃと遥の頭を撫でる。満足気に笑っている遥の横で、プレゼントの包み紙を丁寧に開ける。箱を開けるとそこには龍が彫られてある小さなペンダントがあった。

遥を見ると、遥の首元にも似たようなペンダントを付けている。もしや……と思って聞いてみた。

「これ……もしかして遥が付けてるそのペンダントと同じものか?」

「うん、お揃いにしたかったの。だってね、私の事ずっと育ててくれて、危険な場面でも守ってくれて、ご飯も一緒に作ったり食べたりして、凄く楽しかったの。だからその……おじさんが良ければ私と一緒の……えっと、ペンダントを付けてほしいなあって……

「フッ、当たり前だろ、遥からのプレゼントはなんでも嬉しいからな」

「ほんと?」 

「ああ、ほんとだ」

「へへ、ありがとう!あっ、今付けてあげるから座って!」

そう言われて座ると、遥は俺の後ろに立ってペンダントを丁寧に付けてくれた。改めて鏡越しに見てみると、キラキラと輝いているペンダントが心に染みて、思わず涙が出てきてしまった。

表情変えずに泣いてる俺を見て、遥は心配そうに笑って『もうおじさんったら、すぐ泣いちゃうんだから』と言って袖で涙を拭ってくれた。いやもう大丈夫だから構うなと言って遠慮していると、俺の後ろから聞き慣れた声が陽気そうに話しかけてきた。

「よっ、桐生。似合ってんじゃん。遥ちゃんとお揃いのペンダント、綺麗だろ?」

「あ?錦、何でこれ知ってんだよ?」

「ああ、ったく相変わらず鈍いよなあ。サプライズっていうヤツだよ。それに見てみろよ。遥ちゃんは春のイメージだから桜にしたんだぜ?美人さんだからお似合いだと思って

「おい待て、遥が金貯めて買ったんじゃねえのか」

「馬鹿、ちゃんと遥ちゃんのお金で買ったよ。けどよ、遥ちゃんは俺よりも桐生と一緒にいる時間が長いだろ?だから、お揃いで龍と桜の組み合わせのデザインで買ったんだよ。親代わりだとしても今日は〝父の日〟でもあるしな

ニコッと笑う錦は、相変わらず眩しかった。俺も「フッ、そうか、そうだよな」って言って思わず笑みが零れてしまった。そんな俺を見て、錦も嬉しそうに笑っていた。

そうだ。

錦は、昔からこういうのが好きだった。

俺が誕生日を迎えると、当たり前のようにプレゼントを渡してくる。中身はそれぞれ違っていて、寂しくて泣いてることがバレた時は、大きめのサイズのクマのぬいぐるみを買ってくれたり、錦とのお揃いのTシャツ等をプレゼントしてくれた。

そんな錦と違って俺は、そういうのがどうも苦手だ。一度だけお返しとしてサプライズをしようと決めた時がある。その時は、お揃いのネックレスを渡そうとしたのだが、朝起きた時点でバレてしまって「誰かにあげるんだろ」って冷めた目で言われてしまった時は、本気で死にたくなった。ムカついた俺は「んな訳あるか!お前と一緒のネックレスを買ったんだよ!もう知らねえ!」と言って、勢いで泣きながら家を出た。こういう時にいつも隠れ家として使ってるところがあるんだけど、勘が良い錦は、その隠れ家に来て早々に俺を見つけた。

錦は困った顔をしつつも俺の隣に座って「からかってごめん。お揃いのネックレスありがとう、俺の誕生日覚えててくれたんだな。ちゃんと受け取れば良かったよな、本当にごめんなさい」って言ってきた。なんだか泣くのが馬鹿らしくなって「もういいよ、錦が受け取ってくれただけで俺は嬉しい。ありがとう」って言って抱き締めた。錦は嬉しそうに泣きながら「いえいえ」と一言だけ言って、抱き締め返してくれた。

俺らは、昔からそんな感じだった。

お互いを想って、お互いが庇い合う関係。何より相手が傷付くのは見たくないっていうのが合言葉のように。時々それが裏目に出てしまったりしたけど、俺達は不器用ながらもひたすら想い合った。

そんな過去を振り返ってしまう。

胸が苦しくなって、涙が出てきてしまった。

「おじさん!?」

「桐生!?」

そんな二人が愛おしかった。頑張って守ってきた結果がこの〝このプレゼント〟なら頑張った甲斐があった。無意味じゃなかった。涙がボロボロと流れて止まらなくて、必死に涙を拭っていると、錦はそんな俺にまた違う小さな箱を渡してきた。

その〝箱〟は、小さいながらも大切なものが入ってるような雰囲気がある。顔を上げると、錦はニコッと笑って箱をそっと開けた。

そこには、龍が彫られている銀色の太めの指輪があった。

「何だよ、これ」

「何ってこれ、俺からのプレゼントだよ。遥ちゃんのペンダントと一緒に特注で買ったんだぜ?まあ、それなりの値段がしたんだけどさ、刺青と同じデザインがいいかなあって思って注文したら時間かかるって言われたけど、間に合って良かったわ。それにおめえ、指太いだろ?馬鹿みてえに殴り合いになっても割れない素材を選んで……っておい、どうした!?」

本格的に涙が止まらなくなってしまった。

今みたいにまったりした時間が無かったら、俺は多分錦に返していた。悪いと思って、きっと返していた。けど、今はその気持ちが温かくて、嬉しくて、涙を我慢する事が出来なくなってしまっていた。

 「なあ、錦。俺のことそんなに大事かよ。毎年こんなプレゼントを俺に渡して……こんな事しなくても俺は錦のこと、大切なのに」

「まあ、それは知ってるけどよ、俺は俺なりのケジメを付けようとしてんだ。桐生ばっかに苦労なんてしてらんねえし、何より血は繋がってなくてもおめぇを信頼している遥ちゃんもいる。たまには俺らを頼ることを覚えてくれよな、兄弟」

「……ああ、分かった」

「おう」

ニッと笑うそんな錦の薬指に、龍の指輪と似たデザインの鯉の指輪を付けているのが見えた。錦は俺の為に心から尽くしてくれているのがみえて、嬉しかった。

多分俺は一人で無理し過ぎていたのかもしれない。こんなにも想ってくれる人を傍に置いてて馬鹿みたいに突っ走って、辛いことは全部俺が抱えて生きてきて……

「なあ、遥、錦」

「ん?」

二人にちゃんと言おう。ずっと言えなかった大切な言葉。

「二人のお陰で幸せだって思えた」

そう、ちゃんと、口に出して。

「本当に、ありがとう」

笑って言えた。ああ、でも顔引きつっていたら嫌だな。そんな心配と裏腹に、遥と錦も泣きながら笑ってた。〝こちらこそありがとう〟と答えてくれた。今まで感じる事が少なかったけど、やっぱり二人のお陰で本当に幸せだと思えた日だった。

次は俺もお前らに恩返しをするからな。

 

END